化学するシリーズ




   近年インターネットで調べて見ますと、 種々の事柄や現象を化学的な知識や技術を基に解析し、考えてゆくことを「化学する」という新しい言葉で表すようになってきています。「化学する」ことにより物事の中に隠れている本質の見えてくることがあるように思いました。逆に、物事を「化学する」ことで化学の本質が見えてくることもあるように思いました。私は長年、筑波大学で有機化学の授業を担当してまいりましたが、利用してきた参考書や教科書は化学者あるいは化学を学ぼうと志す若者が化学全体を体系的に理解するために書かれたものでした。そのために、それらの参考書や教科書の内容は身近な事柄や現象と遠く離れた抽象的なことが多く、ややもすると内容に興味を持ってもらえないことも多々ありました。特に、化学以外の専門を持つ人や化学以外の学問を志す若者にとっては興味を持つことも内容を理解することも困難を伴っていたように思います。そこで、私たちの技術や習慣や身近な事柄について「化学して」みたいと思うようになりました。幸い授業の教材が手元にありますので、一般教養としての化学の教科書の内容を含めて以下の項目について「化学する」参考書を書きました。しかし現在まで、身近な種々の事柄を「化学する」参考書はほとんど纏められておりませんので、参考書の体系や内容の並べ方など見本となる物がありませんでした。そのため、私の独善的な解釈やまわりくどい屁理屈も多少含まれていますが、気楽な読み本としてそのような点は躊躇することなく読み飛ばしてもらえば良いと思っております。

(1)   今は亡き小沼直樹教授(茨城大学理学部)が常日頃からご教示くださいました、壮大な宇宙の化学のお話に触発されて、存在も定かでない宇宙の生物の化学的な分析を縦糸として 「宇宙の生物を化学する」 を纏めました。

(2)   人類が欲望に任せて追求している贅沢により、地球のバランスが壊されているように感じ、公害問題、環境問題を化学的に考え 「人類の贅沢を化学する」 を纏めました。

(3)   生命を維持するための活力の源や身体を形作る物質は全て食べ物から摂取する栄養の化学変化により供給されています。そのため、口にする食べ物を化学的に理解することは最も重要な一般教養と考え 「我が家の食べ物を化学する」 を纏めました。

(4)   18世紀以前の錬金術が台所の片隅で密かに研究されていたため、料理法と化学の手法には多くの共通点があるように思われます。料理法の化学的な合理性を考えることは化学の手法を理解するうえで非常に有益なことと考え 「我が家の料理法を化学する」 を纏めました。

(5)   食べ物の文化と並んで、人間を寒さや雨風や種々の外敵から護り、しかも美しく見せる衣服の文化は最も根源的な文化と思われます。身を護るための衣服からパリコレの衣服まで化学的に理解することは最も重要な一般教養と考え 「箪笥の中を化学する」 を纏めました。

(6)   電気は物質の中を電子の流れる現象であり、化学は物質の中の電子が示す性質に関する知識や技術ですから、原子や分子の性質や挙動から多くの電化製品を考えることによりその本質を理解できるものと思われます。電気と化学の関係を理解することは最も重要な一般教養と考え 「電化生活を化学する」 を纏めました。

(7)   日常生活で目にする色とりどりの色に化学の知識を織り交ぜながら、色とりどりの色の光と物質の間の関係を見てゆこうと思います。さらに、動物や植物の色に対する感覚や色の変化のからくりの合理性を化学的に考えてみたいと思い、 「虹色の世界を化学する」 を纏めました。

(8)   太古の昔から顔や身体の形の類型と性質の類似性の間に何らかの関連性があるのではないかと考えられ、人相や手相から人生を占ってきました。人相占いのように、種々の物質を構成する分子の大きさや形などの分子の人相を化学の知識を織り交ぜながら調べて、その物質の性質と分子の人相の間にどのような関係があるか独善的に考え、 「分子の人相を化学する」 を纏めました。

(9)   水は地表の70%を蔽い隠すほどに存在し、地球上のあらゆる自然現象に大きな影響を与えています。人間は水無しには生命を維持することも出来ないほどに日常生活に密接に関わっていますが、水には多くの特異な性質があります。そのため、水を化学的に理解することは水資源を有効利用する上で最も重要なことと考え 「生活に関わり深い水を化学する」 を纏めました。

(10)   陽子と中性子と電子の3種の粒子で万物ができていますから、万物の変化をもたらす3種の粒子の集合の仕方の変化は熱力学の3法則に従います。日常生活に密接に関わる幾つかの諸行無常の変化が自然科学の根幹を成す3法則に従うことを理解すべく、 「諸行無常を化学する」 を纏めました。

(11)   先に公開した「我が家の食べ物を化学する」と「我が家の料理法を化学する」が殊のほか注目されましたので、内容を整理し、数式や化学式を省き、化学に興味を持つ諸君ばかりでなく、広く一般の人々に教養書として読んでいただきたく、 「化学屋のお料理教室シリーズ」 を纏めました。

(12)   日常生活を豊かにする花や果物の香り、魚の生臭さ、妖艶な女性の香水、危険を知らせるガスの匂いなどの成分はみな化学物質です。このように日常生活ばかりでなく、宗教の儀式や権威の象徴や文化の一部に大きな影響をもたらしている匂いについて、化学に興味を持つ諸君のための教科書として、あるいは広く一般の人々の教養書として読んでいただきたく、 「身の回りの匂いを化学する」 を纏めました。

(13)   砂糖水の濃度を0.61%以下にうすめてゆくと、平均的な人間にはもはや甘味が感じられなくなりますから、砂糖が含まれないことと同じ意味を持ちます。感知できない不純物の存在はであり、はそこに含まれる全て不純物の存在がの状態を意味します。このように物質と不純物について、化学に興味を持つ諸君のための教科書として、あるいは広く一般の人々の教養書として読んでいただきたく、 「純物質と不純物を化学する」 を纏めました。

(14)   万物の形は上下、左右、前後の3つの次元で規定されますが、自分と向かい合う相手の間にある物質は自分と相手では互いに右と左が逆になり混乱します。右手と左手や右側通行と左側通行ばかりでなく化学物質においても鏡に写して見える像のように上下と前後が同じで左右だけが逆転した関係が存在し、鏡像関係あるいはエナンチオマーの関係と呼んでいます。このようにについて、化学に興味を持つ諸君のための教科書として、あるいは広く一般の人々の教養書として読んでいただきたく、 「右と左を化学する」 を纏めました。

(15)   還元状態だった地球は長い間に徐々に大気中に酸素分子を多く含む酸化状態の環境になってきました。太古の昔に酸素分子を必要としない嫌気性生物が誕生してきましたが、この地球環境の変化に応じて酸素分子を必要とする好気性生物に進化してきました。好気性生物の人類はこの酸化状態に適応して燃焼の現象などを巧みに利用し文明を発展させて、地球に君臨する霊長類に成り上がりました。酸化状態の地球環境に人類の適応してきた過程について、化学に興味を持つ諸君のための教科書として、あるいは広く一般の人々の教養書として読んでいただきたく、 「燃える角砂糖を化学する」 を纏めました。

(16)   物質の本質にかかわる種々の実験値を集めて独善的に簡単な算術で計算して、得られた計算結果の数字の比較から万物の世界の不思議や脅威や隠れた姿を表してみました。そこに表れた姿から万物の世界の現象を具体的に概観する事ができるのではないかと考え、 「万物の世界を算術で化学する」 を纏めました。

(17)   地球をはじめとして宇宙を構成している万物は陽子と中性子と電子の3種の粒子で構成されている分子やイオンの集合によってできていますが、それら3種の粒子が集合するときには必然的に多くの部分でそれぞれ異なる個性を持った斑が生じますから、森羅万象はすべて斑模様になっています。このように自然界や社会は種々の斑模様で彩られていますから、本書ではその斑がどのように日常生活に影響を与えているかと考え、 「物質の斑を化学する」 を纏めました。

(18)   小さな何故が集まって文明を大きく左右するような大きな何故が生まれてきますから、小さななるほどの積み重ねの上に大きななるほどは導き出されます。このような種々の過程を経て何故からなるほどと納得して落ち着くことが蓄積されて人類の文明が発展し、文化が花開いてきました。本書では基本的な食べ物にまつわるいくつかの何故を化学の知識や経験を基にしてなるほどと納得できるように、 「食べ物の何故をなるほどへ化学する」を纏めました。

   このような内容を化学的に纏めた参考書あるいは教養書ですから、化学、繊維工学、薬学、生物学、環境科学、食品学、家政学、電気工学を中心とする自然科学に興味を持つ高校生および理工系の大学生の諸君ばかりで無く、あまり科学に縁の無い一般の人々にも、興味を持って読んでいただけるものと思っております。従来、大学で用いられている教科書や参考書は高価で、授業を受講する学生諸君にとっては経済的に大きな負担になっているものと思われ、読み本のようなこの参考書あるいは教養書に高額を支払うことは好まれないと考えました。そこで、近年発達した電子情報技術を利用して、この「化学するシリーズ」を利用し易いpdfの形式で、インターネット上に掲載し自由にダウンロードできるように致しました。本書が自然科学に興味を持つ若い学生諸君のお役に立てれば幸せに思っております。
   
(2020.8.26)


鹿島長次