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生活に関わり深い水を化学する


鹿島長次





   地球が適当な太陽からの距離と適当な天体の質量を持っていましたから、水素やヘリウムなどの小さな分子量の分子は宇宙の彼方に飛び去ってしまいましたが、酸素や窒素と共に水は宇宙に脱出することなく地球に残りました。しかも、地表の環境では水は液体の状態で存在しますから、海が地球の70%を覆う豊かな水の惑星になったと思われます。このように大量に存在する水が地球の気候を温暖に保ち、生物にとって極めて適した環境を作っています。
   地球上に生物が誕生したのは約38億年前でしたが、地表がこのようにほとんど海に被われていますから、その後33億年間にわたり生物は海中だけに棲息していました。生物が約5億年前から徐々に上陸するようになっても、その生物の身体の組織は海中に棲息していた時代のものからあまり変化していません。人間も海中に棲息していた生物から進化してきましたから、身体の成分の約70%が水で占められており、液体の水を細胞膜で包んだ組織になっています。そのため成人は1日に尿や便などで約1.5Lの水を排泄し、約1Lの水を皮膚や肺から蒸発させていますから、合計2.5Lの水を毎日補給しなければ体内の水分量が減少して脱水症などを発症し、生命を維持することが出来ません。さらに、洗面や入浴の他に食べ物や食器や衣類を清潔にするための生活用水を必要とします。
   日本のように水の供給に困らない地域では、人間は何も考えることなく当たり前のこととして十分な水を使って生活していますが、ほとんど降水量のない地域では、生命の維持に要する水を得るためにいろいろと知恵を絞り、また争いをしなければならなかったと思われます。この生きるための努力が早くから文明を発達させる結果となったようで、降水量の少ない地域を流れる大河の畔にエジプト文明やインダス文明やマヤ文明や黄河文明が生まれています。そのため古くから「水を制するものが天下を制す」といわれてきました。現在はまだほとんど塩分を含まない水だけを利用していますから、需要に対して生活用水の供給量はかなり逼迫してきました。しかし将来にわたり世界の降水量が大きく変化することは考えられませんから、水を制するために水資源の節約か、無限に存在する海水の水資源への有効利用を考えなければなりません。そのためには地球を覆っていて身の回りの何処にも当たり前に存在している水の性質を改めて見直すことが肝要と思われます。
   本書では水の性質を化学の知識を織り交ぜながら調べて、日常生活を取り巻く種々の物質や現象や利用法などを水の性質と関連させて、独善的に見てゆこうと思います。さらに、地球が水の惑星であり、水が地球上の天然自然の現象に大きく影響を与えていることや生物が水なくしては誕生も進化もありえないことも水の性質を通して化学的に考えてみたいと思っています。日常生活を取り巻く水が簡単な分子でありながら極めて特異な性質を持つ化学物質で、その水の性質を改めて考え直すことで、何か一つでも化学の研究や教育に役立つものが見つけ出せれば良いと思っております。また、逆に水に関する化学的な技術や知識が日常生活を豊かにする新たな水資源の有効利用の技術や知識を生み出す助けになれば、本書はさらなる意義を持つことになると思われます。
   私の独善的な発想を織り交ぜて考察した結果は 「生活に関わり深い水を化学する」 としてpdfの形式でまとめましたので、以下に目次をあげておきます。気楽に読んで頂ければ嬉しく思います。さらに、この 「生活に関わり深い水を化学する」 に対するご意見、ご質問、ご感想をchoji.kashima@nifty.ne.jpにてお待ちしております。


    目次

1. まえがき
· 水を制するものが天下を制す
· 三水(氵)の付く常用漢字は111字
2. くの字型に酸素と水素の結合した水分子
· 電荷を持つ微粒子からなる原子には電荷なし
· 同位元素は重さだけが異なる原子
· 電子を受け取れば陰イオン、失えば陽イオン
· 結合により安定化する原子
· 共有結合はイオン結合性を兼ね備えている
· 33%イオン結合性を持つ水の結合
3. 太陽に照らされて「地球は青かった」
· 波長の長さで変わる光エネルギーの大きさ
· 紺碧に見える深水の水も掬えば無色透明
· 赤外線で調べる宇宙の水の存在
· 水を元気に躍らせて「チ〜ンしましょう」
4. 水は一風変わった液体
· 物質の持つエネルギーは2種類
· 物質の状態を左右する分子間力と運動エネルギー
· 水は凍り難く蒸発し難い液体
· 暖め難く冷め難い水
· 分子の絡み合いで大きな粘性と表面張力
· 0℃では凍らない海の水
5. 水と油
· 化学反応は恋愛ゲームの如し
· 天秤のように鋭敏に傾く系の平衡
· 水の中での物質の挙動
· 酸と塩基は水素陽イオンを出すものと受け取るもの
· 酸にも塩基にもなる水
· 仲の悪い水と油
· 油の仲間を水の仲間にする石鹸
· 水と油の間のまとめ役
· 溶媒だけ通す半透膜
6. 多くの偶然の上に生まれた水の惑星
· 地球から逃げ去った小さな分子
· 二酸化炭素の固定化を援ける水
· 水に支配される地球の気候と自然
· 生物の誕生は海の中で
· 細胞は界面活性剤でできたフラスコ
· 水の分解で作られるブドウ糖
· 生物の活力はブドウ糖が持つ化学エネルギー
· 牛を食べると豚になる
· 水に溶け難い油を溶かす水
· カルシウム濃度で変わる水の硬さ
7. 高が水、然れど水
· くの字型の分子が網目状に絡み合った水
· あらゆる自然現象や日常生活に関わる水


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