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脱炭素化を化学する


鹿島長次


   多くの動物は火からただ逃げ惑いますが、人類は恐れることなくその制御の技術を会得し発生する熱エネルギーを利用して便利で豊かな日常生活を可能にしました。文部科学省が定めている学習指導要領の小学校理科の観察、実験の手引き詳細は、右図のように瓶の中に火の点いたろうそくを入れ,蓋をして燃える様子を観察して「燃焼の仕組み」を学ぶように取り上げ、ろうそくの燃焼により試薬瓶の中の酸素が消費され二酸化炭素が発生したためと説明しています。
   多くの植物は太陽光による水から酸素への分解反応で生まれた還元する能力により、二酸化炭素と水からブドウ糖を生産します。この光合成で生産したブドウ糖を基本骨格に持つセルロースの形で植物は幹や枝や葉などの組織を形作っていますし、でんぷんや糖類などの炭水化物としてエネルギーを備蓄しています。でんぷんや糖類やセルロースなどのブドウ糖を母核とする炭水化物を大気中の酸素により二酸化炭素まで酸化分解し、その時発生するエネルギーが植物の生命活動を維持するための活力に当てられています。大部分の微生物も動物も植物の備蓄したでんぷんや糖類やセルロースを分解し、その時発生するエネルギーを活力にして生命活動を維持しています。このブドウ糖の原料の二酸化炭素は無色無臭の気体で大気中にわずかに約0.03%(300ppm)しか含まれていません。
   火を燃やすときに発生する二酸化炭素を大気中に排出してほとんど注目しませんでしたが、知らず知らずのうちに日常生活の中で広く利用しています。火を制御するためのもっとも簡便な消火材として、代表的な窒素肥料の尿素肥料の原料として、またガラスの原料として利用しています。漆喰やセメントの強度を高めます。二酸化炭素が人間の各組織を刺激しますから、ビールなど飲料して消化器官の調子を整えたり、入浴剤として血行の促進を促しています。パンやクッキーを膨らませるのも二酸化炭素の役目です。固体にしたドライアイスは非常に便利な冷媒ですし、超臨界流体は将来が大いに期待される溶媒となるでしょう。
   人類の歴史の過程で、有効にしかも大量に火を使うことが天下を制し、生活の向上に繋がりましたから、人類は競って火遊びをするようになりました。人類の本来の身体能力を補うように、石油や石炭をどんどん燃やして地球狭しと動き回り、生活環境を快適にすべく夏は冷房、冬は暖房し、昼間のように煌々と灯りを点して昼夜の別なく活動しています。盛者必衰の自然の摂理に従えば、火を使いこなすことにより霊長類と名乗って思いあがっていますが、その火を使う技術と知見が人類を滅ぼす最も強力な仇として働くと考えられます。
   近年世界各地に頻発する酷暑や砂漠化や大水害が大量に排出している二酸化炭素に起因する地球温暖化によるものと危惧し、火力に頼らない脱炭素化が声高に叫ばれるようになってきました。水素を燃料にする方法が提唱されています。発電方法までは深く考えることなく、電力を代替えエネルギーとして依存することも提唱されています。本書では脱炭素化に密接に関係する二酸化炭素の性質や日常生活との関係などを検討しました。地球の温暖化や大気汚染などの地球を破壊する危険を回避するため提案されている脱炭素化の種々の方策も独善的に検証してきました。その結果、火力によるエネルギーだけでなくすべての人為的に発生させるエネルギーの節約が地球を悲劇的な破壊から守る最善策と思います。これらの考えが何か一つでも化学の研究や教育の上で参考になれば良いと思っております。本書がエネルギーを贅沢に浪費する日常生活を改めて見直すきっかけになれば、本書はさらなる意義を持つことになると思われます。さらに本書が幸せな人生を考えるための基礎知識を深める上で貢献できればよいと思っています。
   日常生活と二酸化炭素の密接な関係や声高に叫ばれている脱炭素化を化学の知識や経験に基いて独断的に考えて 「脱炭素化を化学する」 としてpdfの形式でまとめましたので、以下に目次をあげておきます。小難しい部分は読み飛ばして気楽に読んで頂ければ嬉しく思います。この「脱炭素化を化学する」 に対するご意見、ご質問、ご感想をchoji.kashima@nifty.ne.jpにてお待ちしております。


    目次
1. まえがき
· 地球大気中の二酸化炭素の存在感
2. 二酸化炭素の状態
· 二酸化炭素分子の構造
· ドライアイスは二酸化炭素の固体
· 将来性のある二酸化炭素の超臨界流体
3. 地球の歴史と二酸化炭素
· 二酸化炭素は水の中で炭酸に
· 地球上には大量の水
· 大気中に二酸化炭素の少ない地球
· 地中から湧き出す二酸化炭素
4. 燃焼と二酸化炭素
· 周囲の電子の数で決まる原子の性質
· 元素の酸化の状態を示す酸化数
· 火の本質は燃焼熱
5. 生命活動と二酸化炭素
· 植物の葉っぱは緑色
· 太陽光で二酸化炭素をブドウ糖へ
· 生物はブドウ糖をゆっくり燃やして活力に
· 酸素無しで棲息する太古の生物
6. 日常生活と二酸化炭素
· 都市ガスと二酸化炭素
· 窒素肥料と二酸化炭素
· セメントと二酸化炭素
· 水酸化ナトリウムと二酸化炭素
· パンや菓子と二酸化炭素
7. 人為的な二酸化炭素の排出と脱炭素運動
· 近年の大気中の二酸化炭素の変化
· 水素は脱炭素に有効?
· 電力は脱炭素に有効?
· 水に支配される地球の気候と自然
· 二酸化炭素は温室効果ガス?
8. 脱炭素で地球環境を守れる?
· 二酸化炭素は地球を壊さない
· 地球の宿命に従うことこそ最善策

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